
消防点検の6か条~設備に合わせた賢い点検でお得に安全確保~
消防点検を検討される方は、火災に対してきちんとした認識をお持ちなのでしょう。
2001年に新宿歌舞伎町で発生した火災では44名の命が失われ、避難通路の確保が不十分であったことが原因に挙げられました。
「消防設備が正常に作動する」「有事の避難経路を確保する」という事柄は、建物を管理する者にとって義務です。
そこで、この記事では消防点検にかかわる基礎知識から、賢く点検を依頼する方法までまとめてみました。
記事を読むことで、消防点検の必要性から実際に依頼する流れまで学ぶことができます。ぜひ最後までお付き合いください。
1.消防点検とは?
消防点検について基礎知識を学びましょう。「なぜ必要なのか?」「怠った場合はどのような事柄が想定されるか?」という事柄について、きちんとこの項で押さえていきます。
1-1.消防点検とは何か
消防点検は「一定の条件を満たした建物」に課せられた義務です。
設置してある「消火・避難」の設備が支障なく作動するか、また機能しているかを有資格者が検査し、消防庁・消防署長に報告することを「消防点検」と呼びます。
1-2.消防法による義務付け
消防点検は「消防法第17条」で厳しく定められています。
政令によって指定された建物では、消火・避難を適正におこなえる設備を設置し維持する義務があり、怠ることは「法に反する」と覚えておいてください。
1-3.必要性
消火設備は常時では使用されません。しかし、有事の際に「人々を守る」という大切な役目を担っています。
物が経年劣化するのは避けられません。日常生活で使うツールなら、使用するときに「壊れてしまった」「調子が悪い」ということも許せるでしょう。ですが、消火設備に「使えない」という状況は許されません。
「使えない=人に命を危険にさらす」ということに直結するからです。
定期的な消防点検を欠かさないことで、設備が「いざというとき」適正に動けるようたもつことが可能となります。
1-4.怠った場合
消防点検を怠った場合、「30万円以下の罰金」または「拘留処置」が科せられます。また、責任者に限らず、施設の法人にも同様の罰則が科せられると覚えておきましょう。
なお、上記の事柄は「虚偽の報告」をした場合も該当します。
2.消防点検が義務付けられている建物
消防点検が義務であることは前述しました。それでは、具体的にどんな建物が対象となるのでしょうか? 順を追って解説していきます。
2-1.防火対象物
消防法に基づく建物には「防火対象物」と「非防火対象物」があります。
「防火対象物」で、
- 床面積が1000平方メートル
- 面積がなくとも屋内階段が一つに限る
という建物が消防点検を有する対象となります。
また、「非防火対象物」でも、消防庁または消防署長が指定した建物は、消火点検の義務が発生すると覚えておいてください。
基本的に、消防点検を要するのは「不特定多数の人が出入りする大きな建物」という認識でよいでしょう。火災が起きたら混乱が生じるであろう場所は大体点検義務があります。
なお、主な防火対象物は、
- 劇場
- 映画館
- 演芸場
- 観覧場
- 公会堂
- 集会場
- キャバレー
- カフェ
- ナイトクラブ
- 遊技場
- ダンスホール
- 性風俗関連特殊営業を営む店舗
- カラオケボックス
- 待合
- 料理店
- 飲食店
- 百貨店
- マーケット
- 物品販売業を営む店舗
- 展示場
- 旅館
- ホテル
- 宿泊所
- 病院
- 診療所
- 助産所
- 老人養護施設
- 知的障害者施設
- 乳児院
- 老人デイサービスセンター
- 保育所
- 老人短期入所施設
- 障害者支援施設
- 幼稚園
- 特別支援学校
- 蒸気浴場
- 熱気浴場
- 地下街
- 準地下街
などが含まれ、上記の一部を含む複合施設も該当します。
ちなみに、工場・倉庫・学校などは非防火対象物に当たりますが、前述したとおり、消防庁が危険と判断すれば点検義務が生じることは忘れてはいけません。
よい例が学校で、「非常ベル」や「天井のスプリンクラー設備」を見かけた方は多いことでしょう。身近なところに特例は数多く存在します。
つまり、消防庁の指示で防火対象物になるといっても、たまたま目についた建物を指定しているのではありません。規則を踏まえたうえで危険性を鑑み、人々の安全を第一に考えて決定しているのです。
3.消防点検が必要な消防設備
消防点検をおこなう設備は4つに大別されます。下記に代表的なものを列挙していきますので、ご自身が管理する建物にはどんな消防設備があるのか確認してみましょう。
【消火設備】
- 消火器
- 泡消火設備
- 粉末消火設備
- ガス系消火設備
- スプリンクラー
- 消火栓設備(屋内・屋外問わず)
【避難設備】
- 誘導灯
- 誘導標識
- 非常用照明
- はしごなどの避難器具
【警報設備】
- 非常ベル
- 火災通報装置
- 漏電火災報知器
- 自動火災報知機
- ガス漏れ火災報知器
【消防活動用設備】
- 排煙設備
- 連結送水管
- 無線通信補助設備
4.消防点検の種類と期間
前項までで消防点検を必要とする設備についてはわかりました。ですが、実際におこなう消防点検は「機器点検」と「総合点検」の二つに分かれています。どのような違いがあるのか、下記の説明を見ていきましょう。
4-1.機器点検
機器点検は「6か月に一度」と決まっています。確認するのは「作動」「機能」「外観」の三項目と覚えておきましょう。
第一に「作動」ですが、消防設備に応じて「非常電源」「消防ポンプ」が正常に動くかの点検となります。
第二に「機能」です。操作の仕方がわかりやすく、有事の際に的確に扱えるかを考慮して確認作業をおこないます。場合によっては改善点を提案することもあるでしょう。
第三の「外観」は、「部品の欠落」や「操作盤の損傷」などを精細にチェックします。火災のとき、消火活動をおこなおうと操作したら「レバーが根元から折れた」などという論外の事態を招かないようにする重要な点検です。
4-2.総合点検
総合点検は「1年に一度」と決まっています。
消火設備を「全部」あるいは「一部」を実際に作動させ、総合的な機能に支障はないか確認する点検です。機器点検ではわかり得ない内部の詳細まで明らかとなるので、総合点検を毎年必ずおこなうことは特に重要視しましょう。
なお、「機器点検」「総合点検」が正しく実施されると、消防庁告示によって決められた様式に従い、「点検票」が消防設備にはられ、業者は報告書を作成します。もしも不良箇所があれば早急に整備することになると覚えておいてください。
無事に消防点検が完了したら、消防庁または消防署長に報告されます。
なお、非防火対象物につきましても「3年に一度」総合点検はおこなう必要があるので、肝に銘じておきましょう。
5.消防点検をする人とは?
消防点検の内容についてここまで記事にまとめてきました。けれど、その重要度からして点検する人はだれでもよいわけではないとわかります。一体どのような人がおこなうのでしょうか?
5-1.有資格者について
消防点検は「消防設備士」「消防設備点検資格者」の資格を有する人にしかおこなえません。資格を持たない人がインターネットなどの情報を参考に点検し、「安全」と納得しても消防庁が認めることはないです。
5-2.報告義務について
消防点検を滞りなく済ましても、報告しなければ罰則の対象となってしまいます。
建物の「所有者・管理者・占有者」は、消防点検が完了したのち、速やかに消防庁または消防署長に報告しましょう。報告まで終えて消防点検は「完了」となります。
5-3.点検済票
消防点検で「問題なし」と判断された消火設備には「点検済票」と呼ばれるラベルがはられます。このラベルは都道府県の「消防設備保守協会」が適正な点検業者に交付しているもので、設備に不備があると改善されるまではられません。
5-4.どっちの有資格者に依頼すればよいのか?
「消防設備士」は点検に限らず、工事や整備にも携わることが許されています。
一方、「消防整備点検資格者」は点検の一点に特化しており、工事などには関与できません。
それでは、「消防設備士」に依頼した方がよいのかというと、そうとは限らないのです。
消防設備士には甲種・乙種で10種類以上の資格があり、乙種だとだれでも受講可能となります。「資格の数が多い=それだけ区分が分けられている」ということになり、すべてを取得しているなら構いませんが、「一つだけ」だと点検できる範囲が限られてくるでしょう。その点、消防点検資格者は「第一種・第二種・特殊」の三種類に限り、一つの取得で幅広い点検の知識が学べ、許可されています。また、だれでも受けられるわけではありません。
「消防設備士の資格」「電気整備士」などを取得しているという前提のもとに受講が可能となるのです。
つまり、おすすめは「消防点検資格者」ということになります。
しかし、実際には「管理する建物にある設備」によって、必要とされる資格が異なってくると知っておいてください。極端なたとえを挙げるなら、「消火器だけ」を備えた建物に、スプリンクラーや機器類の動作チェックは不要ということです。
あれもこれもと最強の有資格者に依頼する必要はなく、必要な区分に絞ることで費用も抑えられるでしょう。詳しくは「日本消防設備安全センター」のサイト下部に記された項目をご覧ください。
6.消防点検を業者に依頼する
消防点検はどこに依頼すればよいのでしょうか? 当然ながら、消防署が来てくれるわけではありません。
6-1.どこでできるか?
消防点検は「ビルのメンテナンス業者」に依頼するのが一般的です。「消防点検」「業者」とインターネットで検索すると数多くの業者がヒットします。
そのほか、「他業種と併せて点検業務をおこなう業者」もいると知っておきましょう。
6-2.業者選びのポイント
消防点検は人命にかかわる大切な事柄です。そのため、事業内容に消防点検と明確に記載している業者を選びましょう。たとえば、内装工事を依頼した業者が「消防点検も格安で受けられますよ」といっても、有資格者かどうか判然としない場合はやめてください。
また、管理する建物にどのような消火設備があるのか、一度ご自身で確認してみるのも得策です。上記に記した項目などと照らし合わせ、賢く業者に依頼しましょう。
6-3.作業の流れ
消防点検の流れは、
- 見積もり
- 契約
- 事前調査(どのような消火設備があるのか前もって確認し、仕様書を作成します)
- 点検実施(軽微な整備はその場で調整します)
- 点検票をはり、報告書を作成
- 依頼者に報告書を提出します
という段階を踏むのが一般的でしょう。作業が完了すると、後日、業者は報告書を消防庁または消防署長に提出してくれます。その報告が済んだ時点で、依頼者は消防点検の義務をきちんと果たしたことになるのです。
6-4.費用について
消防点検の費用は「建物の広さ」にもよります。大体「1000平方メートル前後」の防火対象物で「2万~5万円」が相場でしょう。
大規模な商業施設になりますと「40~50万円ほど」がかかりますが、値段は建物の特性によって異なります。利用する業者に確認してみてください。
6-5.注意点
消防点検が義務であるのをいいことに、強引に作業をおこない、料金を請求する悪徳業者がいます。勝手に消火器を回収したり、契約書に署名を求めたり、中には代金を支払わないことに対して脅しをかけてくるケースもあるので注意が必要です。
トラブルを未然に防ぐためにも、不審に思ったら最寄りの消防署に連絡するとよいでしょう。同様の被害がよく報告されているので、的確なアドバイスをしてくれるはずです。
7.消防点検にかんするよくある質問
この項ではインターネットを介して寄せられるお問い合わせ内容をまとめてみました。消防点検についてお悩みの方は、ぜひ参考にしてみてください。
Q.消防点検で不具合があったら?
A.有資格者による「修理・整備」が必要となります。ですが、費用がかかるので消防庁に届け出れば猶予をもらうことが可能と知っておきましょう。
ただ、勘違いしてはいけないのが、たとえ知識豊富な業者に依頼して直そうと意味がないということです。「有資格者」に直してもらうというのが絶対条件となります。
Q.どうしても消防点検ができない場合は?
A.いままで消防法に遵守した「点検・管理」をきちんとおこなっていれば、消防庁に問い合わせると猶予をもらえることがあります。
とはいえ、消防点検を怠ったことに起因する火事で「死傷者」が出た場合、罰金は1億円にのぼることもあると覚えておきましょう。当然、この際に損害賠償請求もあるでしょう。有事が起きてから後悔しては遅いので、可能な限り消防点検は優先してください。
Q.見積もりはいくらかかるの?
A.消防点検に携わる業者は、大体が見積もりを「無料」で承っています。弊社でも同様ですので、どうぞお気軽にお問い合わせください。
Q.業者によって点検に違いはあるのでしょうか?
A.「点検」と一言にまとめましても、作動を確認するだけではありません。
「高度な点検」は、近いうちに不具合が起こりそうな「兆候」も見逃さないでしょう。中には流れ作業で点検をおこなう業者もいますが、優良業者は培ってきた実績から得た知識を十分に生かし、点検に「万が一もないよう」努めます。
優良業者は点検に関する詳しい知識を備えていますので、わからないことを尋ねると詳しく説明してくれるはずです。ぜひ尋ねてみてください。
Q.点検のときにアドバイスをもらうことはできる?
A.もちろん可能です。防火にかんすることから防災に至るまで、現地スタッフは培ったノウハウを活用し、建物に最適な設備を提案します。
そのため、消防点検を機に防災に本腰を入れるのもよい手段でしょう。
8.まとめ
最後まで記事をお読みいただき、ありがとうございます。
いかがでしょうか? 消防点検のポイントは、建物に「どんな設備があるか」をまず確認し、的確に業者へ依頼することです。
また、消防点検は人に命にかかわる大切な確認作業ですので、依頼する業者についてきちんと調べ、くれぐれも「手抜き点検」となることがないよう努めましょう。